産まなくても、産めなくても「劣等感は必要ない」。甘糟りり子さんが語る

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結婚、妊娠、出産、そして、家族のあり方……。社会の変化とともに、それぞれのライフステージにおいて多様な選択肢が広がってきた。それでも、根強い社会の固定観念に縛られ、生きづらさを感じる人は少なくないだろう。

作家の甘糟りり子さんは、こうしたライフステージにおける女性の戸惑いや迷いを描く作品を執筆し、2014年に短編小説集「産む、産まない、産めない」(講談社)を発表。2017年には「産まなくても、産めなくても」(同)が出版された。

近年は、生殖医療や社会制度の変化についても取材を重ねてきた甘糟さん。この間、社会の意識はどう変わり、どんな課題が残っているのか。ハフポスト日本版の竹下隆一郎編集長と語り合った。

甘糟りり子さん

■結婚、出産……劣等感を感じる必要ない

――「産まなくても、産めなくても」というタイトルが印象的です。どんな意味を込めたのでしょう。

女性って、自分の意思にかかわらず、「産む」「産まない」「産めない」、いずれかの状態にあてはまってしまうんですよね。シリーズ第一弾の短編集のタイトルを考えている時、そんなことを考えてそのまま「産む、産まない、産めない」というタイトルをつけました。

ただ、「産まない」という言葉がタイトルに入っているにもかかわらず、「積極的に子どもを産まない選択をした女性が作品に出てこない」という指摘をよく受けました。

そこで第二弾では、出産について女性が引け目を感じたり、劣等感を持ったりしなくても良いんじゃないか、という思いを込めて「産まなくても、産めなくても」というタイトルにしたんです。

「産んでいない女性の味方になりたい」と言うと大げさかもしれませんが、少しでも気が楽になる世の中になれば、と思っています。 

竹下隆一郎編集長

――劣等感を感じないように変えていくには、どうしたら良いでしょうか。

私自身の話で言うと、「産まない」と明確に選択したわけではなくて、子どもがほしいと具体的に思ったことはありません。それでも、出産を経験していないことで何となく世の中に「申し訳ございません」という気持ちになるような場面が何度かありました。

最近は世の中の意識も変わってきて、そんなことはありませんが、それでも時々「このテーマを出産の経験がない人が書いても説得力がない」と言われるんですよ。だから、逆に書いている私が引け目を感じている場合じゃない!と思います。

それから、「自虐」をやめなくちゃと反省しています。

「結婚をしたいのにできていない」とか「産みたかったのに産めなかった」という設定で自分を茶化しちゃうんですよね。本当はそんなことないのに。そんな文脈で話すことが癖になっていたんです。こういう自虐を言うことで、自分だけでなく、同じような生き方をしている誰かを茶化してしまうことになると思うようになりました。

 

――私の周りにも「自分は売れ残りですから」という人がいました。よく聞いてみると「本当はそんなこと思っていない」と言うんです。周囲の雰囲気で「言わされている」という感覚なんでしょうか。

言わされているというより、気を遣われるのが面倒くさいんですよ。「なんで結婚していないんですか」とストレートに聞いてくる人は少ない。

何となく不審がっているのがわかるので、そう言っておくとおさまりが良いというか……。あれこれ詮索される前に終わらせちゃった方が楽だから、安易に自虐に走ってしまうのではないでしょうか。 

甘糟りり子さん

■集団の前に個があるべき

――以前、「子どもを3人産んで」と発言した政治家がいました。なぜこうした発言が出てくるのでしょう。 

政治の世界を見ると、意識が変わるどころか、後戻りしているんじゃないかと思います。「女性活躍」と言っておきながら、そもそも女性閣僚が少ないですよね。

2018年3月の米アカデミー賞で、主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンドが「インクルージョン・ライダー」という聞き慣れない言葉を使い、力強いスピーチをしました。

インクルージョン・ライダーとは、映画に出演する際、キャストやスタッフのなかに性別や人種など少数派が一定割合で入ることを条件とすることです。

最後に、女性の候補たち全員に「立ち上がってください」と促したんですよ。女優だけではなく、監督も美術も脚本もすべての職種の女性候補です。すばらしいシーンでした。

日本でも、自分の意見を発信する芸能人やスポーツ選手がもっと増えたらいいのになあと思います。芸能やスポーツに限らず、分野を問わずにね。

 

――ある企業の方がSNSで「子どもを育てている人の方が、他者のことを考えているから、管理能力がある」という趣旨の発信をしていて、気になりました。こういう考え方が蔓延しているのは、危険なことだと思います。

そもそも、子どもを育てている人を一緒くたにするのがおかしいですよね。産んでない人と産んでいる人、育てている人と育てていない人をそれだけで一つの状態に決めつけちゃうのは危険だなと思います。

 

――こうした発言が出る背景を考えると、子どもを産んでいない人、家族を持っていない人に対して「社会に貢献していない」という意識がどこかにあると感じます。

集団は個に対して存在するべきだと私は考えています。どんな集団でも、です。国や社会のために、個人が引け目を感じたり犠牲になったりする必要はないんじゃないかと思います。

もちろん家族だって個が集まった集団。ですから、集団の前に個があるべきです。でも、私はわりと最近まで、結婚したら相手とは「運命共同体」にならなきゃいけないものだと思っていました。考え方が古かったんですね。

やっとそうでもないってことに気がつきました。外国人と結婚している友人は何人もいますが、パートナー同士で宗教が違うこともあります。日曜日にパートナーは教会に行き、友人はひとりでランチ、なんていうのはよくあること。違いがあっても結婚が成り立つなんて、当たり前のことなんですよね。

 

――メディアの責任もあると思います。以前、新聞社の校閲担当者と話したとき、昔の記事では未婚の人をあらわす際に必要のない文脈でも「独り身を貫く」という表現がよく使われたそうです。

友達も恋人もいるかもしれないのに、「結婚していない=孤独」という先入観はもう過去のものですよね。文章を書いたり、媒体で何か発信したりする立場の人は、細かな表現にも気を付けなきゃいけないと思います。

私もつい、長年の習慣で知人に「ご主人はお元気ですか」なんて言ってしまうことがあります。意識的に「パートナー」と言うようにしています。主人、亭主……。結婚相手の男性を、対等の相手として表現する日本語が少ないんですよね。

甘糟りり子さん

■「知っていれば」と後悔しないために

――生殖医療についても取材をされたそうですね。これまでは天に任せるしかなかったのが、生殖医療で救われる人もたくさんいると思います。一方で、どこまで人間がコントロールして良いものなのか、非常に難しい問題も絡みます。

「体外受精」によって産まれた子を「試験管ベビー」と呼んだ時代がありましたが、「言ってはいけない秘密」のようにとらえられていたと思います。

でも、今は違う。不妊治療をすることは一般的になってきました。ただ医学が進歩すればするほど、倫理的な問題にぶつかります。

出生前診断、産み分け、代理母、卵子凍結、卵子提供、精子提供などなど、取材を重ねてもなかなか答えにたどり着けないというのが正直なところです。

ただ、どんなに医学が進歩し、社会の意識が変わっても、卵子は一定の年齢を過ぎると老化するそうです。産むにしろ産まないにしろ、それは知っておいた方がいいと思います。

自分で選択するということが大切ではないでしょうか。もちろん、知っていても思うように妊娠できない場合も少ないない。だからこそ、早めに自分の可能性を知っておくべきです。

例えば、「可能性を残しておく」という意味で「卵子凍結」がもっと一般的なことになっても良いんじゃないかなと思います。私の本を読んだ知人が「少し若い頃に知って、卵子凍結したかった」と言ったときは、何と返して良いか、わかりませんでした

甘糟りり子さん

■描く中で感じた社会の変化

――続編を書くとしたら、どんなテーマに関心がありますか。男性を主人公にするといった構想はありますか。

第二弾の「産まなくても、産めなくても」では、不妊治療をしている男性の話を入れました。少子化も不妊治療も子育ても、女性だけの問題ではありません。もっともっと男性に関心を持ってもらいたいです。

養子縁組についても、近いうちに「普通のこと」になるといいですよね。同性カップルが里親になることを認める自治体も出てきましたし、一歩ずつですが、変わってきていると思います。

今はまだ、友達が「養子縁組する」と言ったらきっと驚きますよね。賛成、反対ということよりも「えっ」って思ってしまう。その「えっ」がなくなる日が来て欲しいです。

 

――これまで、ご自身の考えの変化もありましたか。

自分も変わるし、世の中の空気も変わります。10年前は、「女性の喜びは結婚して出産すること」という雰囲気がありました。私自身は子どもを産みたいとは思っていなかったのに、「産んだ方が良い」「産むのは良いこと」と信じて疑わずにいました。

作品を出したことで様々な意見が届き、みんなが「お母さんになりたい」と思っているわけではないことを実感しました。

ここ数年で社会の意識はすごく変わっています。私自身も変わっていかないと取り残されてしまうと思います。いま結婚や出産に直接関係ない人も、この本が考えるきっかけになったら嬉しいです。

Source: ハフィントンポスト

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