「捨てたくない本、売ってます」無印良品も協力する新しい「古本屋」の仕組み

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バリューブックスの中村和義取締役

古書店・バリューブックス(長野・上田)が廃棄される多くの本を再生するユニークな取り組み「捨てたくない本」プロジェクトに挑んでいる。同社に送られてくる買い取り希望の本は毎日2万冊。そのうち1万冊は値が付かず、本来は捨てられてしまうという。同社はこれらの本を再び選別し、例えば格安で書棚に並べたり必要な場所に寄付する。この課題意識に良品計画が賛同し、一部の「無印良品」店舗で販売するなど着実に取り組みを広げている。バリューブックスが社会の共感を得るのはなぜか。その秘訣を探ってみよう。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)

古紙回収にまわす本は毎日約1万冊。回収された本の95%は再生紙として活用される

バリューブックスはAmazonなどのインターネットで古本を販売する古書店だ。自社サイトから本の買い取りも行う同社に毎日届く約2万冊の古本のうち、インターネット市場で再び販売できるのは半分の約1万冊。残りの約1万冊は値が付かず、その多くは「廃棄本」 となってしまう。廃棄本は古紙回収に出され、再生紙として活用されるが、本は本としての役目を終える。

売れない本を買い取ることはできず、ほとんどの場合はバリューブックスが引き取ることになる。しかしいつまでも倉庫に置いておくことはできない。

捨てたくない本、売っています

「インターネット市場での価格は、状態や発刊年だけでなく需要と供給のバランスが大きく影響します。値が付かない本の多くは、読めない状態だったり内容が面白くない、ということではないんです」こう話すのはバリューブックス取締役の中村和義氏。廃棄本は同社だけで発生しているわけではなく、大型の古本屋ならばどこも同様に発生しているという。

査定で値が付かなかった本をもう一度選別して、救出する――。選別した本は、ブックバスで地域の小学校に「ブックギフトプロジェクト」として届けるほか、被災地や学童施設などにも寄付したり、実験的な店舗「バリューブックスラボ」で文庫3冊100円といった格安で販売する。

贈り先に合った本を目視で選別し、贈り先ごとに仕分けて本を「救出」
ブックバスで小学校を訪問し、生徒一人ひとりに本を選んでもらうことも

このような活動にももちろん、コストがかかる。現在では朝9時から休憩を挟んで14時頃まで、3-5人のスタッフが一冊一冊を目視で、寄付先や置き場所にふさわしい本を選別している。そうまでして「本を本として」流通させることにこだわる理由は何か。

「単純にもったいない、ということに尽きます。それに、本には持ち主の思い入れがあります。スペースの問題などで手放さざるを得なかったとしても、ほかの誰かに読んでもらったほうがいい、と思われる方も多いのかなと思っています」(中村和義氏)

本をどう扱っているかを、サービスの利用者も見ている。結果として「本を売るときにはバリューブックスに売ろう、という動機になれば嬉しいです」と中村和義氏は話す。もちろん、資源という観点でも、本が本の価値を損なわないほうが長く社会で活用されることになる。

共感する企業も現れた。「無印良品」などを展開する良品計画は、本を扱う実店舗に「捨てたくない本」の書棚を設けることにした。現在は京都山科とシエスタハコダテの2店舗で取り扱う。毎月担当者が上田市のバリューブックス倉庫を訪れ、無印良品の店舗に置く本を選別している。

実験的な実店舗「バリューブックス・ラボ」では4000-5000冊の「捨てたくない本」を販売する。文庫・新書・漫画は3冊100円、単行本・雑誌1冊50円、大型本・絵本1冊100円。

古書店の慣習や常識を覆す取り組み

バリューブックスはこれまでも、一般的な古書店とは一線を画す取り組みをしてきた。

例えば、送られてきた本の買い取り査定額をそのままNPOなどに寄付する「チャリボン」では、売り手に支払うお金の行き先を変えた。利用者の立場では、本を売る動機がお金ではなくスペースの問題などであることも多く 、そうした場合「良いことに使われるなら」と思う人が多いことは想像に難くない。感覚的には「本を寄付する」という行動だろう。

また「VALUE BOOKS ECOSYSTEM(バリューブックス・エコシステム)」は、古本の売り上げを一部の新刊出版社に還元するという常識破りの取り組みだ。還元されるのは「値崩れしない本ばかりを作っている出版社」。創業から10年以上のデータを見ると「古本として出されても90%以上に値が付き、買い取り可能な出版社がある」と気付いた。長く読み継がれる本をつくっている出版社に利益を還元することで、廃棄本を減らす「本の循環」システムをつくることが狙いだ。

寄付本の売り上げを上田市内のNPOの活動費にする「FURE FURE BOOKS」の書棚。本の寄付者が、売り上げの寄付先を協力団体から選ぶことができる

「成長することは会社の目的ではない」

これらの取り組みは利用者の共感を得て、2007年の創業以来、右肩上がりで成長を続けてきた。しかし「無理に会社を成長させることをやめたんです」と話すのは創業者の中村大樹氏(以下、大樹氏)。「成長は会社の目的ではないように感じます」という。

そもそも「僕は会社を『古本屋』と決めているわけではないんです」と大樹氏はいう。バリューブックスは大樹氏が「生活するために」せどり(古本などを安く仕入れ、利益を上乗せして売ること)を始めたことがきっかけで創業した会社だ。

大樹氏は古書店の業界慣習やルールに詳しかったわけでもない。「古書店」という枠にとらわれず、必要なものは工夫してシステムやハードをつくりながら事業を拡大してきた。転機が訪れたのは3年前だという。

「成長のために誰かが犠牲になるということが社内でも起こっていました。それで、無理をするのをやめたんです。僕は株主でもありますが、利益目標を会社のお題として提示していないんです。規模感や成長ではなく、例え会社がシュリンク(縮小)していったとしても、そこにいるみんなが幸せでいられる状態をつくりだすこと。会社の目的のひとつはそこにあると思っています」

「成長」を目的にしないことを明確にしたことで、業績の伸びも緩やかになった。現在は正規・非正規という社会制度に囚われず、誰もが自分の意思に基づいて行動できる環境をどのようにつくるか、組織を変革している最中だという。

ビジネストランスフォーメーションの秘訣は

創業者・バリューブックス中村大樹代表

「ゲームのルールが変わってきているように思うんです」と大樹氏は分析する。

「必ずしも会社が大きくなって、たくさんのお金を稼げたほうが幸せだとは限らないということを、僕たちの前の世代の人たちが証明してくれました。じゃあどうしようか、というお題に変わっているんじゃないかと思います。もちろん生活のためにお金を稼ぐ必要がありますが。

人口は減少していくし、本は売れなくなっていく。全体的にシュリンクしていきます。右肩上がりで成長する中でのビジネスというゲームは、もう終わったんだと思います。『上場企業』『業界ナンバーワン企業』のポジションをとるというのは、いまのゲームにおいて不利なことが多いのではと思っています。上場企業は成長を約束しなければならないモデルで、売り上げ業界ナンバーワン企業は、シュリンクしていく状況にダイレクトに影響を受けるので――」

バリューブックスのミッションは「日本及び世界中の人が本を自由に読み学び楽しむことのできる環境を整える」ことだ。「古本」でなければならないわけではない。古書の取り扱いから始まったからこそ見える、いまよりも持続可能な「売るべき新刊」や「本のつくり方」、「流通」も見えてくるかもしれない、と大樹氏は今後に意欲を見せる。

大樹氏がいま集中的に取り組んでいるのは、本棚の写真から本の関連付けやアーカイブ、管理、独特のレコメンド、購入もできるようになるサービス。写真から仮の査定が手軽にできる現在の「本棚スキャン」サービスを進化させたものだ。

古書店、出版業の慣習や常識だけでなく、ともすれば強迫観念めいてしまう「成長」にすらとらわれず、「生活するお金を稼いで、気持ち良い社会になって、みんなが無理せず幸せになれたらいい」と素直に話す。社内でこういった姿勢を大上段に語ることはない。ミッションに沿ったプロジェクトの出発点は、従業員や関係者の「もったいない」など素朴な気持ちからだ。それこそが、社会の共感を得るビジネストランスフォーメーションの秘訣なのだろう。

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Source: ハフィントンポスト

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